新たな旅のインフラ


山梨日日新聞No.4【令和4年6月11日発行】

 昨年8月に山梨―静岡間が全線開通した中部横断自動車道。それを記念して「観光」をテーマに6月6日に開催された県主催の「中部横断道リレーシンポジウム」で、筆者はコーディネーターとして参加させて頂いた。

 今年のゴールデンウイーク中の観光客の入込客数がコロナ前の令和元年と比較して4割以上減少する中、峡南地域は17.7%減にとどまり、道の駅富士川の昨年の売り上げが過去最高を記録するなど、中部横断道の開通は、新たな観光需要につながっているといえる。また、安全安心へのニーズが高まる中、中部横断道や御殿場バイパスの整備により広域周遊ルートが形成されたことから、富士山や八ケ岳の自然を体験する修学旅行のニーズが高まっている。その結果、昨年の修学旅行先ランキングでは、山梨は、京都、奈良に続く第3位に躍進した。
 しかしながら、移動時間が短縮したことは、山梨を通過してしまう、いわゆる「ストロー現象」にもつながりかねない。また、コロナ収束後に、修学旅行ニーズが続くという保証もない。そのため、地域の魅力を知ってもらい、旅の目的地となるための情報発信が不可欠であると観光事業者は語る。
 コロナ禍で個人旅行が増える中、旅の目的も多様化している。有名な観光地を巡るだけではなく、歴史や文化、自然等、それぞれの趣味や興味関心を掘り下げる多様な旅の形が生まれている。こうしたニーズに応えるためのひとつとして、地域に根付いた旅行会社が地域密着の様々(さまざま)なツアーにより、多様なニーズに合った旅の楽しみ方を提供する「地旅」がある。地域の生活を垣間見たり、伝統工芸や農作業などの体験をするなど、旅を通じて地元の人とふれあうことで、自分だけの感動が得られ、それが大切な思い出となる。

 今回のシンポジウム登壇者も、峡南地域を中心に地域密着型の体験・ツアーを手掛ける南山梨ツアーズや、身近な自然を活(い)かした自然体験を行う清泉寮、地元の農産物を使った商品を地域の観光につなげようとする道の駅富士川の取り組みなど、個々の地域資源をつなぎながら地域全体としての魅力を発信する取り組みを進めている。
 こうした、地域の多様な資源を通じてその場所や人とのつながりを築いていくことが、地域に特別な思いを持つコアなファンづくりにつながる。そこで生まれる地域と訪れる人々をつなぐ関係性こそが、新たな旅を形づくるインフラになるのではないだろうか。

(山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)