中小企業の脱炭素経営


山梨日日新聞No.13【令和4年11月26日発行】

 カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素経営が注目されている。脱炭素経営とは、気候変動対策の視点を織り込んだ企業経営のことを言い、企業活動の過程で発生する二酸化炭素などの温室効果ガスを削減していくものである。近年は、自社の脱炭素化だけでなく、原材料や流通等を含めたサプライチェーン全体での脱炭素化を進める動きが広がっており、大企業だけでなく中小企業においても温室効果ガスの排出量削減が喫緊の課題となっている。また、山梨県は全国でも中小企業の比率がトップクラスに高いため、県域全体でのカーボンニュートラルを目指すためには、中小企業における脱炭素の取り組みを加速させることが重要となるだろう。

 しかし、中小企業が脱炭素化に取り組むことは容易ではない。内閣府が2022年に実施した調査の結果によると、大半の非上場企業が脱炭素化に向けた取り組みに全く着手できていない。また、脱炭素化に向けた取り組みを進める上での課題として、ノウハウや人材の不足、投資や事業運営に伴う企業負担の増加等が制約になっていることが指摘されており、経営資源の限られる中小企業にとって脱炭素経営に取り組むことの難しさがうかがわれる。
 一方で、脱炭素化に向けた潮流は中小企業にとってチャンスでもある。脱炭素経営に率先して取り組むことでサプライチェーン全体での脱炭素化を目指す企業との取引の拡大につながることや、温室効果ガスの排出を抑制する省エネルギー化性能の高い機器等を導入することで光熱費や燃料費の抑制につながることが期待される。さらに、自社のサービスや製品を通じて脱炭素化に貢献することができれば、新たな顧客の獲得にもつながることが期待される。このように、脱炭素経営を実践していくためには、脱炭素化に向けた取り組みを負担として捉えるのではなく、企業の成長等を同時に実現するコベネフィット(共便益)の考え方を持って推進していくことが重要である。

 中小企業が脱炭素化に向けて行うべき行動としては、まずは経営者や従業員一人ひとりが環境や脱炭素に関心を持つとともに、温室効果ガス排出量の削減対策を計画的に実践していく必要がある。また、山梨県内の中小企業で脱炭素化に向けた取り組みを進めるためには、行政や公的支援機関等によるサポートや、金融機関による金融面等での支援など、地域全体で取り組みを後押ししていくことも不可欠であろう。

(山梨総合研究所 主任研究員 櫻林 晃)