事業者の合理的配慮とは
山梨日日新聞No.49【令和6年7月22日発行】
令和6年4月から改正障害者差別解消法が施行され、事業者による合理的配慮の提供が義務化された。ここでいう合理的配慮とは、障害のある人から意思表示があった際に、社会の中にあるバリアを取り除くために障害者と事業者が話し合い、出来る範囲での解決策を探っていくというものであるが、世間では「障害者の言う事を聞かないと法律違反になるのか」、「小規模事業所は対応できない」といった不安や懸念の声が多く聞かれる。
本来の法律の趣旨は、対話による解決策の模索を求めるものであり、決して事業者側に一方的に負担を求めるものではないし、障害者を特別扱いするものでもない。そもそも、障害者にとっての社会の中にあるバリアを取り除くということは、マイナスをゼロにするための対応であって、そこからプラスの特別な何かをするという意味ではないのである。
だが、実際には障害者が何か意思表示をした際に、「特別扱いできない」、「わがままを言うな」といった声により批判にさらされることは、以前から見られてきた光景である。なぜこのようなすれ違いが起きてしまうのか。
要因のひとつとして、日本のサービスのあり方が考えられる。日本人の気質のなせる業なのか、日本では交通から飲食・行政まで、あらゆるサービスが非常に高いレベルで日々提供されている。顧客対応についても同様で、従業員の教育やマニュアルの整備を通じて、世界トップクラスの対応が実現されている。だが、効率性やマニュアルの順守を重視するあまり、柔軟な対応が阻害されてはいないだろうか。障害者が可能な範囲で合理的な配慮を求めた場合でも、「ルールなので」と言われて対話すら行われないというケースは、こういった背景も影響していると考えられる。
ただ、言うまでもなくルールやマニュアルを守ることはとても大切なことであり、それ自体には何の問題もない。また、仮に担当者が配慮したいと思ったとしても、一担当者ではなかなか意思決定も難しく、人によって対応が異なることにより「前回は対応してくれたのに」といった苦情にも繋がりかねない。
重要なのは、個人ではなく組織として対応するということである。今回の改正においても、「個人で思いやりを持って対応しましょう」といった感情論ではなく、組織として方針を定め、従業員への周知・協力を行い適切に対応することが求められている。それに基づき、各事業所が合理的配慮について学ぶことで、社会全体の理解促進に繋がるのである。
対話により、障害者が適切にサービスを受けることが可能になり、企業も潤う。そして、互いへの理解が深まることにより共生社会の実現に近づいていく。今回の改正が、そういった好循環の創出の第一歩となることを期待したい。
(公益財団法 人山梨総合研究所 主任研究員 山本 陽介)