迫られる「官」意識の変革
毎日新聞No.669【令和6年8月4日発行】
夏の暑さが本格化する中、自治体職員の採用試験は、都道府県職員を対象とした前半戦が終わり、市区町村職員を募集する後半戦を迎えているが、自治体職員の採用には大きな問題が生じている。
総務省の調査によると、全国自治体の令和4年度の職員採用試験の平均競争率は5.2倍で過去最低となった。顕著な例として、沖縄県では、令和5年度の大卒程度の行政職に850人の応募があったが、これは10年前の平成26年度から半減しており、全国的にみても応募者が年々減少している。
問題はそれだけではない。北海道では、令和5年度の大卒の一般事務職に920人の応募があったものの、採用となった312人のうちの39.4%が辞退した他、鹿児島県でも、採用試験全体の合格者のうち36.8%が辞退するなど、辞退者も増加している。
さらに問題なのは、若手職員の早期退職の増加である。栃木県では、令和5年度に自己都合により退職した職員のうち20代が21人で、令和元年度と比較して4倍に増加するとともに、30代が34人、40代が17人と、ここ数年2桁の人数の退職が常態化している。また広島県では、令和5年度の自己都合退職者119人のうち、20代以下が22人、30代が24人、40代が17人と、令和2年度と比較すると、20代以下が5.5倍、30代が3.0倍の増加となっている。
採用試験の競争率の低下の原因は、魅力の低下など様々な要因が想定されるが、年々採用開始を早める民間企業との競合も大きく影響するとともに、採用内定後の辞退の増加の問題は、民間企業だけでなく、都道府県同士や市町村同士など、自治体間での競合も影響している。
自治体では、特に採用努力をしなくても志願者が集まり、採用が内定すれば必ず就職し、終身雇用が約束されているため定年まで勤め上げるという時代はとうに終わりを迎えている。
これからは、上記のような従来の「官」的な意識の変革が求められるとともに、自治体職員を志す個々人の想いをどのようにして自治体側が拾い上げるのか、採用後にはそうした想いを実際の業務にどうつなげていくのか、特に若手職員の人材育成の中で、いかにして専門性を身に付けてもらい、自主性を発揮できる業務の幅を広げることができるかなどが大事な視点となってくるものと考える。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 宇佐美 淳)