災害への「不安」
毎日新聞No.670【令和6年8月21日発行】
8月8日に宮崎県で発生したマグニチュード7.1の地震を受けて、気象庁は南海トラフ巨大地震の発生可能性が高まったとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。注意期間は15日に終了したが、この発表に不安を抱いている方も多くいるのではないだろうか。
国土交通省の「災害統計」によると、令和4年までの過去5年間に、地震を含む異常気象による復旧事業等が行われた箇所数は、山梨県が208箇所、長野県は2,685箇所である。都道府県あたりの平均が1,500箇所あまりであることから、県土面積に差はあるものの、山梨県は自然災害による被害が比較的少なく、また長野県は多い地域であるといえる。
一方、山梨県が令和3年度に実施した「県民意識調査」によると、自然災害に対する安全性に満足しているとの回答は全体の34.5%にとどまっている。また今年度、山梨総研が独自に実施した県民アンケート調査によると、防災対策がしっかりしているとの回答は26.2%と、多くの県民は少なからず自然災害に不安を抱えているという結果になった。
この「不安」とは、一体どこから来るのだろうか。災害はいつ、どこで起こるか分からない、それによって命や財産が危険にさらされ、さらには、災害によってその後の暮らしや仕事に大きな支障を来たすのではないか――。漠然とした不安は誰にでもあるだろう。不安を少しでも和らげるために出来ることはあるのだろうか。
今回の発表に関連して、国や自治体による「公助」とともに、私たち一人ひとりが身の安全を守り生き延びるための準備をする「自助」が求められている。しかし、災害発生時には、自分だけではどうすることも出来ず、また公助が及ばないことも想定される。その中で、地域でお互いに助け合う「共助」が重要となる。近年、地域のつながりの希薄化が問われる中で、前述のアンケート結果においても、地域活動への参加と防災対策への満足度の高さに関係性がみられる結果となった。このことは、日頃の人と人とのつながりや地域における災害への備えが、私たちの「不安」を和らげることに寄与しているといえる。
災害への不安は決して消えることはないかも知れない。しかし、この不安をきっかけに、地域とのつながりについて改めて考えてみることも必要ではないだろうか。
(公益財団法人 山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)