地域のお店の役割
山梨日日新聞No.50【令和6年8月26日発行】
ネットショッピングは、コロナの前からだいぶ浸透していたが、コロナ禍を経てすっかり生活に定着したといえる。いつでもどこでも、多種多様な商品を購入することができるし、サービスにもよるが、翌日には受け取れる。家の玄関前に宅配ボックスが設置されている家が以前と比べてだいぶ目につくようになるなど、ネットでの買い物は現在の生活に欠かせない便利なものとなっている。また、買い物に出かけることが困難な人にとっては、ライフラインともいえるサービスでもある。
総務省の家計消費状況調査によると、1世帯あたりの1か月のインターネットを利用した支出は、2019年の12,683円から2023年の20,132円と大幅に増加しており、主な購入品である食料では1,659円が4,096円、衣類・履物は1,339円が1,935円とそれぞれ増加している。
一方、同調査で1世帯あたりの1か月の食料、衣類等に係る支出額をみてみると、食料が2019年の75,258円から2023年の81,738円にやや増加、被服及び履物が2019年の10,779円から2023年の9,297円に減少しているが、ネットショッピングの家計の支出に占める割合は増加しているのがわかる。実際に私も、以前と比較して、服をネットで買う機会が増えたと感じている。
ネットを利用した支出が増加すれば、街中のお店での買い物が減少することになる。そう考えると地域のお店の売り上げが減少しているのではないだろうか。
地域のお店は、商品の販売やサービスの提供の他にも、(お店自体が意図していない部分もあるだろうが、)地域の住民の生活に関して様々な役割を担っている。
まず、あいさつや天気の話など世間話ができる貴重なコミュニティの場である。最近は、「暑いですね」以外に話題がなかなかないが、お店の方から「これ、おいしいよ」などと教えてもらうような気軽なコミュニケーションがある。子どもにとっては知らない大人と関わる貴重な機会であると同時に、買い物とはなにかということを学ぶ場でもある。地域のお店だと、子どもが商品や代金の受け渡しをしたがることについても寛容な印象がある。
次に、安心できる場である。いつも行くお店であれば、いつも買っているお目当てのものがある、パン屋や洋菓子店、雑貨屋などお気に入りの店に行けばそこは癒しの場でもある。
他にも、お店が毎日営業していることで、通学中の子どもや近隣の方をさりげなく見守るという地域の安全に緩やかに貢献する場でもある。
とはいえ、お店には商売が不可欠であり、売り上げや利益がないと成り立たない。こちらのお店のおかげで、地域の安全が守られているんです、このお店は街の景観の一部なんですと言われても、それが直接売り上げにつながらなければ、お店はつぶれてしまう。
様々な役割を担う地域のお店が存続していくためには、私たち消費者がモノやサービスを購入する際に、価格や便利さだけではなく、他のものさし(地域への貢献度、自分の愛着度、子どものお気に入り度など)を加味してお店を選ぶ、そんな価値観で行動する日もあってもよいのではないか。
私たちが、地域でお店を見つけ、そこに立ち寄り、買い物や交流を楽しむことで地域のお店の役割の維持に私たちも貢献できる。それがひいては地域活性化にもつながると考える。
(公益財団法 人山梨総合研究所 研究員 清水 季実子)