難病患者の就労


毎日新聞No.672【令和6年9月15日発行】

 山梨県では、令和6年度より難病患者を対象とした県職員の採用枠を設け、募集を開始した。定員3名程度の枠に8名の応募があり、秋以降試験が行われる予定となっている。この枠は、障害者手帳の有無に関わらず指定難病等に罹患している人であれば応募が可能というものであるが、自治体職員の採用でこうした枠が設けられるのは全国初の試みであり、難病患者の就労促進に繋がる取り組みとして注目されている。

 難病患者が就労し、働き続けるためには多くの乗り越えなければいけない壁があるが、その最も大きなものは“伝わらない、”理解されない”ということではないだろうか。難病患者とは、厚生労働省が指定する341の指定難病(令和641日時点)に罹患している人のことを指すが、341疾患という数の多さからも分かるとおり、難病の種類により、現れる症状は多岐にわたる。さらに、同じ難病でも症状は人によって異なるため、難病患者と一口に言ってもその状況はまさに千差万別であるといえる。こうした事情から、雇用する会社側からすると「どう対応したらよいか分からない」、「すぐ休んでしまうのではないか」といったイメージが先行し、採用に二の足を踏んでしまうといったケースが多くみられる。
 ただ、実際には、難病患者であっても適切な支援やサポートがあれば問題なく就労を続けられるケースも多い。休暇を取得しやすくすることやサポート職員の配置などは幅広く有効なサポートであると考えられるが、疾患により必要なサポートは異なる。そのため、支援体制や制度の構築は必要だが、その前段階として、まずは「対話によるコミュニケーション」が最も重要となる。

 会社側は、しっかりと聞く耳を持って難病患者の声を汲み取る体制を作るべきであるし、難病患者の側も自分には何ができて何ができないのか、どういった支援や配慮を求めているのかをしっかりと意思表示することが大切である。実際問題として、規則の改正や機器の導入といった対応は人手やお金がかかる話になり、そう簡単にできることではないものの、対話を通じてお互いができることをできる範囲でやるだけでも、就労に繋がるケースは多くあると考えられる。こうした考え方が浸透し、社会全体として難病患者の雇用促進が図られることを期待したい。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 山本陽介