移住人気地の住宅問題
山梨日日新聞No.52【令和6年9月30日発行】
先ごろ、今年度の基準地価が発表された。7月1日時点の住宅地、商業地、工業地など全用途平均の地価は、全国では1.4%の上昇となったが、山梨県内は0.7%の下落となり、未だ低下傾向にある。商業地は2桁上昇を記録する地点がみられるなど低迷を脱する動きが出始めているが、住宅地は32年連続の前年割れである。人口が減少基調にあり、住宅取得の需要が長期的に低迷していることが要因のひとつであろうが、リニア中央新幹線の開業による立地条件の向上に期待するところである。
ところで、山梨県内の住宅事情に関しては、市街地中心部や過疎地での空き家問題、対照的に進行する市街化調整区域での住宅建設の増加を始め様々な問題が挙げられるが、喫緊の課題の一つに移住人気地における供給不足がある。
山梨県は全国指折りの移住人気地であり、豊かな自然に魅了されて移住を希望する人は多い。こうした中で、空き家率の高い本県には特に移住者の誘致に熱心な山間部や過疎地にも住む人のいなくなった民間の家屋が数多くあり、一見すると住居は容易に確保できそうである。しかし、実際は傷みがひどく住むには不適であったり、正月やお盆には帰省する、先祖の仏壇が残してあるなどの理由により、売却も賃貸もしていない状況が散見される。空き家の売買や貸借を仲介する空き家バンクが山梨県内のほぼ全ての自治体で設置されているが、供給量が少なく、十分には機能できていないようである。
また、公営住宅には空きがあるものの、所得制限など条件に合わず入居できないというケースがみられ、さらに、公共施設の維持コストを考慮し、長期的には公営住宅のストックを減らす動きもある。
一方、入居希望者は、古民家や改修した空き家では納得せず、新築や利便性の高い物件を求める場合があるが、こうした物件はさらに少ない。このため、住む場所を確保することかできず、近隣の自治体へ行かれてしまった、という話も数多く聞かれる。
住居の確保は、地域再興・活性化を図るための重要な要素である。解決を図るためには、既存資源の有効活用の観点から空き家の再利用を目指すのが良いのだろうが、経済合理性だけで進められる話ではなく、容易ではない。所有者が代替わりし地域に愛着を感じない世代となれば売却希望が増えてこようが、時間がかかる。
自治体によっては、所有する公営住宅の入居条件の緩和や民間賃貸住宅の建設に対する補助制度の新設、特に山間部では自治体自らの住宅建設地の分譲、賃貸住宅の建設等の動きか拡大しているように感じる。また、空き家について全数調査を行い、空き家バンクの機能充実を目指す動きもある。
これに加えて、所有者が一定時期だけ滞在できる条件付きの賃貸契約の普及、使わなくなったランドセルの小型化のような仏壇の小型化による後継者宅への設置、不要な家具などを保管するトランクルームサービスの実施、改修や不用品処分に対する補助制度の充実、メタバース上への実家再現・訪問体験などデジタルを活用したサービスの提供などにより、空き家の再利用が促進できないだろうか。
移住人気に水を差さないためにも、財政負担に限界があるなか、民間の資金、アイデアも積極的に活用し、優先順位を上げた取り組みを期待したい。
(公益財団法人 山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)