準備は念入りに


毎日新聞No.676【令和6年11月10日発行】

 環境省によると、2024年の富士山の全登山道合計の登山者数は、開山日である71日から閉山日の9月10日までで約204千人であった。山梨県では近年、国内外の富士登山者による山頂付近の深刻な混雑や、5合目を夜間に出発し、山小屋に泊まらず夜通しで一気に山頂を目指す「弾丸登山」などが発生していることを受け、富士山吉田口登山ルートでの入山料の徴収を義務化することに加え、午後4時から翌日午前3時まで閉鎖する登山ゲートを新たに設置することで、1日の登山者数を4千人に制限するといった規制を実施した。その結果、富士吉田市の調査によると、午後5時から翌日午前3時の間に6合目を通過した登山者数は6,737人と、前年の約4分の1に減少した。一方で、規制開始時刻の午後4時間際にゲートを通過し、弾丸登山につながる「駆け込み登山」の発生や、現地の指導員が登山の危険を説明したにも関わらず、不十分な装備で登山を始めてしまうといった規制だけでは対応しきれない課題が明確となった。

 こうした問題は富士山に登山に訪れた方に限った話ではなく、登山やハイキングをする方には共通することではないだろうか。長野県や山梨県には、「八ヶ岳」や「甲斐駒ヶ岳」をはじめ、「日本百名山」に選ばれている多くの山がある。これから紅葉シーズンを迎えることもあり、自然を楽しむための登山やハイキングを計画している方は多いだろう。筆者も最近ハイキングを始めたが、全くの初心者であり、道具や服装を念入りに整えた。その中で、周到な準備もなく半袖半ズボン、サンダルといった軽装で登る方を見たときは、驚きを隠せなかった。

 登山やハイキングは年齢に関係なく誰でも楽しむことができる。自然を楽しむためにゆっくり歩く方もいれば、キャンプ道具を用意して泊まり、暖かい食事を楽しむ方もいるだろう。一方で、トレイルランといったスポーツをする方もいる。目的は人それぞれであるが、安全・快適に過ごすためには十分な準備が必要である。特に山は天気が変わりやすく、晴天で暖かかったのににわかに霧が出始め、次の瞬間には雨になって冷えてくることはよくある話だ。一人ひとりが登山やハイキングの危険性を知り、計画的に準備をすることが、登山やハイキングを安全で楽しいものにしてくれるのではないだろうか。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 藤原 佑樹