100年企業を目指す厳しくて温かい経営


山梨日日新聞No.54【令和6年11月11日発行】

 今回は(公財)山梨総合研究所が、所属研究員の研修のため視察した株式会社土橋製作所(笛吹市)を通して、同社が掲げる「厳しくて温かい経営」について考えてみたい。
 「温かい経営」には、従来のトップダウンから、ボトムアップを促す「心理的安全性」が重要になる。一方で、「厳しい経営」では、コスト高に直面しながら高い収益性を追求するため、強いリーダーシップのもとでDXなど改革の推進が求められる。ある意味、トレードオフとも言えるこの2つを、どのように両立しているのだろうか。

 株式会社土橋製作所は創業73年、社員数80名の製造業の企業である。笛吹市八代町に工場を構え、マシニングセンターなど最新の工作機械によって、半導体製造装置向けの部品加工や産業機器の設計・製作を手掛けている。
 現社長の土橋悦子氏は2000年に先代の父から事業を継承し、業績を伸ばしている。技術力の高さは毎年のように受注先企業から「優秀取引先」として表彰されていることからもうかがえる。
 「厳しくて温かい会社」の企業文化はどのように生まれたのか。土橋氏は「かつては『冷たくて甘い会社だった』」と振り返る。「私は独りぼっちだった」とも。過去のインタビューで土橋氏は「入社時は『どうせ社長の娘だから』と冷たい目を向けられる」、「円高不況で仕事がなく倒産危機寸前」、「仕事量が回復すれば職人から不満の声が出る」、「納期に応えなければ会社の未来はない」と語っている。
 会社存続の危機にあって土橋氏が孤立を感じていたと考えれば、この企業で働くことへの自負を願ったり、「皆を幸せにし、皆で幸せになる」といった全体の幸せを追求したり、そのための「素晴らしき仲間たち」といった企業が目指す姿を口にしたりする意味が理解できる。
 社長は、社員を(共に闘う)「仲間」ととらえる。「社員が大好き」と公言するのもその現れであろう。社長が「10年越しの夢」として実現させたことの一つに、社員食堂の開設がある。「社員が食事を共にし、語り合える場を作りたかった」。一部負担で食事がとれる環境を整えた。同人会や社員旅行、忘年会、社内イベントなどが次々に企画されるのも「温かい会社」ならではだろう。
 一方で、「100年企業」を目指し成長し続けていくためには、従業員それぞれが会社を「経営」しているという意識が必要だ。その意識を育む一例は「改善推進委員会」にある。各部署から集めたメンバーで組織し、些細なことでも改善やコスト削減につなげる。グループや個人が自ら改善案を考え、試行したものを提案する形式だ。実行した上での提案とすることが「自分事化」につながっている。
 毎期末には提案ごとにコスト削減結果が数値で示される。それにより社員の経営感覚が養われ、成果に応じて表彰もされる。社員が「自身がこの会社にいる意義」を見出すきっかけとなっているのだろう。

 数字を求める「厳しさ」と社員の心理的安全性を担保する「温かさ」は、どちらが欠けても動かない自転車の両輪のようなものなのだ。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒)