職場への土産選びが苦手な理由は?


毎日新聞No.682【令和7年2月2日発行】

 私は職場への土産品選びが苦手だ。選んでいるうちに嫌気がさす。なぜなのか気になり「土産」について調べてみた。
 『広辞苑第7版』(新村出編、岩波書店)によると、「土産」とは「旅先で求め帰り人に贈る、その土地の産物」と定義されている。また、実践女子大の角本伸晃教授は、土産品が観光の主な目的地・施設に直接ゆかりのある物という真正性(authenticity)が強く求められた時代があったことを論じている。しかし、私が職場向けに選ぶのは、個数が多く、手頃な価格の大量生産された菓子土産であり、「土地の産物」といった真正性にはほぼこだわらない。本来あるべき選び方を無意識に感じているため、これが後ろめたさを生み、結果として土産選びが嫌になるのかもしれない。

 獨協大学の鈴木涼太郎教授は、「観光みやげにおける生産地と販売地の乖離に関する基礎的研究」で、その地で製造・販売されている「真正もの」に対し、生産地と販売地が異なる商品を「煙突もの(レールもの)」と呼び、批判的に論じられてきたことを紹介している。これが生じる理由として、業界側は販売地とは異なる地で大量生産することで利益を優先する傾向があり、観光客側は一定の条件さえあえば「煙突もの」であってもよしとする意識の低さがあると述べている。
 しかし鈴木氏は、例えば「地域限定」の土産はそれが「煙突もの」であったとしても、観光客がその場所を訪れた証明となるため一定の意味を持ち、「ご当地キャラクターの存在ですら緩やかに観光地における経験を語る縁ともなる」として、観光みやげの生産地と販売地の一致という「真正性」要件は必ずしも絶対ではないと論じる。
 また、職場の同僚やアルバイト先の仲間に「真正」だからと高価なものを贈るのは現実的ではなく、むしろ、真正性が限定された菓子土産のほうがコミュニケーションのツールとして適切であり、無難さが求められるとする指摘も興味深い。
 観光庁の「旅行・観光消費動向調査」によると、宿泊を伴う個人旅行における「その他土産代・買い物代」の購入率は、2021年以降増加傾向にある。コロナ禍を経てデジタル化などで対面でのコミュニケーションが減る中、土産がその補完手段として活用されているのかもしれない。

 次回の旅では、もっと前向きに職場での会話のきっかけとなるようなものを選んでみよう。職場での土産話に花が咲くかもしれない。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒