難病患者の働き方


山梨日日新聞No.60【令和7年3月3日発行】

 山梨県では、今年度から初めて難病患者を対象とした県職員の採用枠を設け、募集を行った。定員3人程度の枠に8名の応募があり、試験に合格した3名は来年度から県職員として働くことになる。
 難病患者は、厚生労働省が指定する341の指定難病(令和641日時点)の患者だけでも100万人以上おり、指定難病に含まれない難病患者を合わせるとその何倍にもなると推計されている。今回は、難病患者が働くためにはどんな障害があり、何が必要なのか、データを基に考えていきたい。

 令和39月に「難病者の社会参加を考える研究会」が発行した「難病者の社会参加白書」では、全国の難病患者を対象に、就労に関する調査を実施している(有効回答数548人)。同調査では、約8割が「疾患に対してコンプレックスを感じる」、約6割が「求職中・就業中に疾患を理由に差別を感じたことがある」、コンプレックスが解消されるために必要なことの上位は「周囲や社会の理解」といったデータが示され、まとめとして当事者が望むのはまず何よりも”理解されること“であると述べられている。
 また、同調査では雇用側の経営者や人事担当にも調査を行っており、その結果からは、雇用側が一部ではあるものの難病に対して「治らない」、「致命的なもの」、「就労は困難」といった偏ったイメージを持っている実態も見えてきている。

 この調査結果は、問題のポイントが難病患者もそうではない人も「お互いのことが分からない」という点にあることを示している。雇用側は普段なじみがない故にどのように対応したらよいか分からず、難病患者側も「理解されないのではないか、差別されるのではないか」といった想いを抱えながら自身の状態や必要な配慮などをうまく伝えられず、理解されないことに苦しんでいる。
 このすれ違いを解消するための第一歩は、まず社会全体として「難病患者も働くことができる」という認識を持つことである。もちろん病状や障害の程度によってできることは変わってくるが、「難病患者=働くことができない」というイメージは誤りであり、難病患者であっても一定の配慮を受けることで問題なく働くことができるケースも多い。
 この前提に立ち、お互いが対話によって「何ができて、何ができないのか」、「やるためには何が必要なのか」などを考えることで、難病患者を含むすべての人がやりがいを感じ、生き生きと働くことのできる社会に繋がっていくのではないだろうか。

 冒頭で述べた山梨県の取組は、難病患者の就労を促進するというスローガンを掲げるだけでなく、実際に行動に移したという意味において画期的なものであり、今後他の自治体や民間企業にも波及していくことが期待される。しかし、ここまで述べてきたとおり難病患者の就労は働き始めてからが本番である。難病を抱えながらの就労は困難も多いが、お金だけではなく生きがいや達成感・かけがえのない仲間などを得ることができる。未来溢れる3人の若者がこれからどのように働いていくのか、期待を込めて見守りたい。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 山本 陽介)