病気を持つ人の就労
毎日新聞No.685【令和7年3月16日発行】
病気を抱える人が就職活動を行う際に、面接時などに持病のことを伝えるかどうかはとても悩ましい問題である。もちろん、本来は自分の病状を正確に伝え、働くうえで問題があるのか無いのか、あるならばどういった配慮が必要なのかを双方が理解したうえで雇用の是非を判断すべきなのであるが、実際にはそうなっていない現状も垣間見える。
山梨県では、今年度から難病患者を対象とした県職員の採用枠を設けて募集を行うという、全国初の試みをスタートした。こうしたケースでは最初から病気を抱えている前提での募集・採用となるため、病気のことを伝えるかどうかという悩みは生じず、周囲のサポートも受けやすい環境になるのではないかと考えられる。
同様の動きが今後広まっていくことを期待したいが、より重要なのは、こうした特別な枠を設けなくても病気のことをオープンにして、働くことができる社会を創っていくことである。そのための第一歩は、雇用者側が「病気があると働けない」、「病気を抱えていることはデメリットである」という認識を変えることである。
一言で病気と言ってもその病状は様々であり、当然のことながら問題なく働くことができる人もいれば、優秀な能力を持つ人も多くいる。適切なサポートをしたうえでそういった方々に働いてもらうことは社会全体にもとてもメリットがある。
現状、病気を抱える人はそのことがデメリットとして受け取られることにより、不採用もしくは解雇となることを恐れて病気のことを言い出せないという、心理的安全性が確保されていない状況にある。そのため、病気を抱える人は辛い状況を隠して無理に働かざるを得なくなり、その結果体調を崩すといったことになれば、雇用者側は労働力を失ってしまうかもしれないという、お互いにとってマイナスの状況になってしまう。
しかし、病気のことを伝えても正しく理解され、必要な配慮について一緒に考えてくれるという環境が構築できれば、病気を抱えながらでもその人は良好なパフォーマンスを発揮することができ、雇用者側も大きな戦力を得ることができるという、お互いにとってプラスの状況に転換することができるのである。
このように、病気を抱える人が活き活きと働くことができ、それにより社会が活性化していく好循環が構築されるよう、様々な角度から社会の理解が深まっていくことを期待したい。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 山本 陽介)