インフラ維持への心構え


山梨日日新聞No.61【令和7年3月24日発行】

 先ごろ、埼玉県で道路が陥没し、トラックの転落や広域での下水道の大幅な利用制限という事態が発生した。インフラや公共施設の老朽化が進み、規模の大小はあれ同様の状況は日本各地で起きている。
 自治体では、こうした事態を防ぐため、インフラや公共施設の補修や建て替え等に関する管理計画を策定し、計画的な取り組みを始めているが、その道程は険しい。
 低成長経済が続き、社会保障費が膨らみ財政はひっ迫する中で、人口が今後も減少を辿ることを考えると、全てのインフラ・公共施設を維持することはできず、ほとんどの自治体では統合や廃止が必要な状況にある。実際、県内では、公共施設の床面積で最大4割程度削減しないと財政が破綻する自治体もある。
 自治体では補修・更新費用捻出のため、インフラ・公共施設の管理方法や予防的補修などによる支出の縮減だけでなく、自主財源の拡大、地方債の活用、国庫補助の要望なども行っていくだろう。ただし、潤沢な資金をインフラ・公共施設の整備に充てることができる自治体はそうない。

 厳しい財政状況については、自治体で住民に周知を始めており、総論としては理解が徐々に進んでいよう。ただ、影響が自分に及ぶとなると話は別となり、各論ベースでは反対の声がしばしば聞かれる。
 おそらく住民理解を得るのに難航している問題のひとつが学校統合であろう。なくなれば単に不便というだけでなく、思い出や記憶など感情に関わるだけに厄介である。現在利用している当事者以上に地域住民の声が大きいのも、調整が難しい一因である。
 公共施設はなくなれば不便である。しかし、便利な生活を続けていくために子や孫の代の借金を増やし続けてもよいのだろうか。社会を持続させていくためには、住民一人ひとりが少し我慢して現在の生活水準を若干切り下げる心構えが必要であろう。国の借金が増えていることを考えると、身の丈以上の生活をしていたのである。
 大多数の住民にとって「あれば使うかも」という意識で「存続」を希望するも、「なくてもなんとかなる」というインフラ・公共施設は結構あるのではないか。「不便にはなるが少し足を延ばせば類似の施設がある」、「今までやっていたスポーツはできなくなるが健康づくりが目的ならサイクリングなどでも同じ効果が得られる」。こうした状況を甘受する姿勢も求められよう。
 一方、老朽化の問題解決には、住民の積極的な行動で貢献できることもあろう。例えば、LINEを活用して道路の傷んだ個所などを自治体に送信する仕組みを取り入れている自治体では、早期発見・早期対応により維持コストを下げることができる。また、インフラ管理の一部をゲーム感覚で住民等に委ねる取り組みもあり、専用アプリを使い、損傷など問題あるマンホールや電柱を撮影し送信することにより、特に他者が未送信の物件は高いポイントが得られ、地元で使えるギフト券がもらえる、という試みなどが始まっている。

 自治体は、住民に対してこれまで以上に様々な手段で情報を開示し、実情を説明していくことが求められる。また、住民側も実態を正しく理解し、不都合な真実に目を背けず、官民一体となって取り組んでいく必要がある。人口減少問題のように対応が遅れ、ツケが大きくならないことを望みたい。

(公益財団法人 山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)