土地の持つ価値とは?
山梨日日新聞No.62【令和7年4月7日発行】
先月、令和7年度の公示地価が公表された。「公示地価」とは、国土交通省が毎年1月1日時点における標準地の価格を公表したものであり、土地取引に対する指標にもなっている。
基準地は、住宅地・商業地・工業地の3つに分類されるが、全国平均では、令和6年度と比較していずれも上昇した。山梨県では、住宅地の平均は0.4%の下落、商業地は横ばいであるのに対して、工業地は1.8%の上昇となった。県内を車で移動していると、各地で新たな生産拠点などの整備が進められているのを目にする機会が多いが、こうした状況からも、県内の工業地の需要を感じ取ることができる。
住宅地の地価が全体的に下落傾向である中で、今月11日に「コストコ南アルプス倉庫店」の出店を控えている南アルプス市では、地価が上昇している。実際、南アルプス市の人口は、令和3年までの減少傾向から令和4年度以降は転入超過による増加傾向に転じている。その理由としては、企業誘致による雇用の創出や子育て支援などの自治体の取組みに加え、商業施設の整備に伴う賑わいなどが期待されることも、要因の一つではないだろうか。
今年2月に甲府商工会議所が発表した会員事業所を対象に実施したアンケート調査結果によると、コストコの出店による影響について、「わからない」との回答が4割で最も多く、地元事業者への影響を予測するのが難しいといった状況が見受けられる。また、「よい影響がある」との回答は26.8%であり、その理由として、「地域の賑わいの創出」や「人流増加」「売上増・販路拡大」など、交流人口が増加することによる効果が期待されている。
一方、出店により懸念されることに対しては、「ある」との回答が6割を超え、その理由として、「周辺道路の交通渋滞」や「人手不足の深刻化」「賃金上昇」など、企業の経営面のみならず、日常生活への影響も懸念される結果となった。
今回の出店は、県内需要だけではなく、静岡や長野など広域からの集客を見込んだものであることから、それによる交通渋滞への影響を懸念するのは無理もないことだ。また、33年ぶりに5%を超える賃上げ率を記録する中、大手と中小企業での賃金格差が、地元中小企業の人材不足に拍車をかけるのではないかとの懸念も確かにあるだろう。
地価、人口、雇用など、地域における一つ一つの出来事は、それぞれが独立しているのではない。お互いにつながり、相互に作用することで、時間の経過とともに地域や人々の営みに様々な影響を及ぼしている。短期的にはプラスにつながることもあるが、中長期的には、マイナスの影響を及ぼすこともあるかも知れない。実際のところ、それらすべてを予測することは難しく、どのような影響を及ぼすのかは起こってみるまで「わからない」。
しかし、本来その土地が持つ価値には、地価に反映される経済的な尺度だけではなく、歴史や風土、人のつながりといった様々なものさしがあるのではないだろうか。
時代とともに地域は変化し続け、それに伴い地価も変動する。その中で、地域にとって変わらず大切なものは何かを考え、将来にわたりそれを守り育んでいくことが、その土地の価値につながるのではないだろうか。
(公益財団法人 山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)