地域の豊かさを育む感性
毎日新聞No.689【令和7年5月11日発行】
筆者は現在、山梨県立大学で「地域の豊かさ」という授業を担当している。2022年に山梨総合研究所が出版した書籍『山梨ならではの豊かさ ~地方が注目される時代へ~』を教材に、受講生と共に地域の豊かさについて考察している。
第1回目の講義では、「序章:パラダイムシフト」を取り上げ、地方が注目されるようになった時代背景などを解説した。その後、受講生をグループに分け、いくつかのテーマについて話し合った。その一つが「豊かさの指標」である。「豊かさ」をどのように捉え、どのように測定できるかについて議論した。
グループ発表では多様な意見が見られたが、大きく二つに分類することができた。一つは「個人の意識」に関するものであり、もう一つは「地域が持つ客観的な特徴」に基づくものである。前者については、「ウェルビーイング」の概念が近年注目され、それを測定する指標も開発されている。
一方、地域の特徴は誰にとっても同じであるにもかかわらず、それを「豊か」と感じるかどうかは人によって大きく異なる、という意見もあった。この点から考えると、地域の特性に豊かさを見出す「感性」の重要性が浮かび上がる。筆者は、このような感性の醸成が地域の豊かさに深く関係しているのではと考えている。
先日、北杜市小淵沢町に住む友人が、SNSに何枚かの写真を投稿していた。「第1回 小淵沢やうやう市」の様子である。見覚えのある神社の境内には、多くのテントやキッチンカーが並び、若者や子どもたちで賑わっていた。筆者は幼少期、小淵沢に住んでおり、この神社でよく遊んだ経験がある。その神社に、こうした賑わいが生まれたことに驚きと感動を覚えた。
投稿には、主催者と思われる人々の写真もあり、小淵沢の知人の姿も写っていた。彼らは地域に愛着を持ち、これまでも様々な活動に関わってきた。しかし、今回のイベントは彼らだけでは実現できなかっただろう。仕掛け人となったのは、小淵沢に移住してきた若者を中心とした人たちであり、筆者の友人もその一人だった。
「よそ者、若者、バカ者」が地方活性化の鍵であると、かねてから言われている。今回のイベントは、まさに「よそ者」かつ「若者」の力によって成功を収めた好例だといえる。
筆者は写真を通じてその様子を知っただけだが、大変うれしく感じ、自身が育った地域を誇らしく思えた。こうした体験を通して、「地域の豊かさ」が更に深まったと実感している。
このように、地域においてその魅力を再発見し、再認識することも、地域の豊かさに繋がるのではないだろうか。そして、それを後押しする様々な取り組みに、今後も大いに期待したい。
(公益財団法人 山梨総合研究所 理事長 今井 久)