人生ゲーム化する「結婚」
山梨日日新聞No.78【令和8年1月19日発行】
「人生ゲーム」をご存じだろうか。スロットで出た目の数だけコマを進め、ライフイベントを経験しながら資産額を競い合うアメリカ発祥のボードゲームである。日本では1968年にタカラ(現タカラトミー)が発売。以降、時代に合わせて職業やイベントがリニューアルされ、国民的ゲームへと成長した。勝敗にはスロットを回すギャンブル要素が大きく影響するが、人生の分岐に差し掛かるとプレイヤーに選択肢が与えられる。進学や就職、家を買うなどのイベントはその後の資産額に影響するため、勝利に向けて合理的な判断が迫られる。令和時代の生き方は、「人生ゲーム」へ次第に近づいているように思う。生まれた環境や他者との出会いは運次第。進学や就職の場面では、自己の利益を最大化するために合理的な判断が求められる。その最たる例が「結婚」であると筆者は考える。
厚生労働省「人口動態調査」によると、山梨県における2024年の婚姻数は2,781件。これは30年前の約半数(1995年5,314件)で、全国の減少幅とほぼ比例している。婚姻数の減少は結婚適齢期人口の減少に加え、未婚化の進行を示している。総務省「国勢調査」をみると、全国の45~49歳における未婚率は、1990年(男性6.8%、女性4.6%)から2020年(男性29.9%、女性19.2%)にかけて4倍以上に増加。また、国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」(以下、社人研調査)によると、18~34歳未婚者で「一生結婚するつもりはない」と答えた割合は、1992年(男性4.9%、女性5.2%)から2021年(男性17.3%、女性14.6%)にかけて大幅に上昇している。
なぜ、人々は結婚を選択しなくなったのか。社人研調査の「独身生活の利点」についての回答をみると、「行動や生き方が自由」を挙げる割合が男女ともに7割以上で最多。「住宅や環境の選択の幅が広い」「家族を養う責任がなく気楽」を挙げる割合も年々増加している。結婚することで家族を持つ責任が生じる上、時間的・経済的に制約される。個人として合理的に判断するならば、結婚した先にある将来の不確実性に伴うリスクを予測し、それを回避するために「結婚しない」のである。これは、人生の分岐における個人の裁量が増した分、責任の重さも個人に集中したことを示唆している。
一方で、結婚を後押しする最大の要素は非合理的な「運」であると筆者は考える。社人研調査における18~34歳未婚者の「独身でいる理由」をみると、25~34歳では「適当な相手にまだめぐり会わないから」の回答が男女ともに約5割で最多。つまり、出会いに恵まれた際には独身者の多くは結婚を視野に入れる。合理的な思考だけでは決断できない場面で、一期一会の直感やフィーリングが重要な役割を果たすのである。行政が講じる婚活支援の多くは結婚希望者を対象としたマッチングの場の設定だが、独身者の背中を後押しするのは偶発的な出会いだ。「婚活」といった恣意的な場ではなく、スポーツや文化活動の振興、ボランティア活動の促進など人と人との交流機会を増やして偶発的な出会いの誘因を作った方が、婚姻数は副次的に増加するのではないだろうか。
本研究所では、来る2月25日に山梨県民の幸せをひも解くフォーラムを開催予定だ。前述のような「結婚」と「幸せ」をテーマとした話題も取り扱う予定なので、ご興味のある方はぜひご参加いただきたい。
(公益財団法人 山梨総合研究所 研究員 日原 智香)