観光の広域回遊の視点
山梨日日新聞No.81【令和8年3月30日発行】
山梨県における2024年の観光入込客数は3,158万人で、前年比22.7%の増加となった。圏域別では富士・東部が1,729万人で全体の54.8%を占め、依然として富士山周辺地域の人気の高さを示している。
昨年12月に発刊されたリクルート社の情報誌「じゃらんとーりまかしvol.82号」に興味深い分析が掲載されている。
じゃらんリサーチセンター(JRC)が将来の観光戦略を考える上で設定した7つの指標の全国トップ10において、山梨県は「労働供給力」が2位、「観光歳出比率」が8位に入っている(その他の項目ではランクインなし)。
労働供給力は、観光関連業種への労働力供給の高さを示した指標。また観光歳出比率は、金額の規模ではなく都道府県の全予算に占める観光分野への投資割合の高さを示した指標である。
さらにJRCでは、各指標の分析を基に47都道府県を6つのクラスタに分類しており、その中で山梨県は、高い労働供給力と安定した財源を裏付けとした「観光インフラ充実型」に位置付けられている。
このクラスタは、旅行者を受け入れる環境と人材基盤が比較的整っている地域で、特定の観光地域に縛られない、広域回遊圏の形成が可能なポテンシャルを保有していることから、旅行者が「点」ではなく「面」で楽しむ仕組みを整えることで、繁閑差がなく魅力ある観光が実現できると分析されている。
世界的知名度を持つ富士山の周辺地域は山梨県において観光の強力な牽引役である一方、消費や滞在が特定地域に集中する傾向もある。観光客をいかに他の圏域へ誘致するか、この課題を解決するためには、JRCが示す観光の「広域回遊」を見据えた以下の視点が重要と考える。
第一に、「豊かな自然」を活かした体験型観光の強化である。南アルプスや八ヶ岳、奥秩父などの山岳資源、清流や湖などの四季の変化に富む自然環境を活用し、トレッキング、サイクルツーリズム、森林セラピーを組み合わせたウェルネスツーリズム、話題のアウトドアサウナなど、体験型のイベントを展開することで、滞在の長期化が期待できる。
第二に、「歴史文化」を軸としたストーリー型観光の構築である。武田氏ゆかりの史跡、甲府や都留に残る城下町文化、甲州街道の宿場町遺構、昇仙峡や身延山の信仰文化などをテーマごとに編集し、ツーリズムを複合的に組み合わせることで、地域の歴史や文化を深く体感することができる。
第三に、「伝統的な食文化」を活かした地域の魅力づくりである。果実、甲州ワインや日本酒、名水、高品質な農畜産物などの山梨ならではの食材を軸に、ワイナリーや酒蔵、農園、飲食店などを結ぶ「食の回遊ルート」を整備する。農業体験やガストロノミーツーリズムなどを通じた地域との交流も魅力的である。
さらに、「観光DX」推進によるサービスの向上も重要である。専用アプリによる回遊促進や混雑分散、MaaSによる移動手段の利便性向上、AR・VRによる施設解説の高度化や多言語化、手ぶら観光ネットワークの構築など、観光産業の基盤強化にDXは不可欠である。
以上は筆者が考える主な視点であるが、こうした山梨県の魅力あふれる観光資源を「点」から「面」へと再構築し、観光を持続可能な成長産業として確立するためにも、「広域回遊」の視点は今後の方向性を示す重要な鍵となるだろう。
〈出典〉じゃらんリサーチセンター「とーりまかしvol.82号」
(公益財団法人 山梨総合研究所 専務理事 降矢 結城)