Vol.333 小江戸甲府花小路への期待~開業1年の振り返りと今後の可能性~
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 渡辺 たま緒
1.はじめに
2025年4月、甲府駅南口エリアに「小江戸甲府花小路(以下、花小路)」が開業し、1年が経過した。4月18、19日には1周年記念イベントが盛大に開催され、屋台やマルシェが並ぶ賑わいの中でその節目を祝った(写真1)。
まちづくりは本来、10年、20年という長期的な時間軸で評価されるべきものである。しかし、初動の「使われ方」や「人の流れ」を定量・定性の両面から観察することは、その後の方向性を確認する重要なプロセスであると考え、本レポートでは、甲府市が保有するビッグデータと、筆者自身による5日間・5万歩に及ぶ現地観察調査、さらにはクチコミ分析を統合し、花小路が地域に与えたインパクトを検証してみたい。
写真1 花小路1周年記念イベントのチラシと当日の様子(筆者撮影)
2.小江戸甲府花小路の概要
全長約100m、面積約4,200㎡、テナント数18という比較的コンパクトな空間であるが、甲府市歴史文化交流施設整備等事業として、
- 甲府の歴史・文化を今につなげ、新たな文化を創造する
- お城とまち、まちと人をつなげる
- 人と人をつなげ、交流を促進する
をコンセプトに開業した。
中心施設である亀屋座は、交流拠点として位置づけられている。
また、花小路は、その場単独で完結するのではなく、舞鶴城公園(甲府城跡)、甲州夢小路[1]、オリオンイーストなど周辺エリアとの回遊を前提として整備されている点が特徴である。つまり、花小路は、「歩いて楽しむ文化都市・甲府」の結節点として構想されている。
3. データが示す「順調な滑り出し」
3.1. 54万人の来訪と属性分析
甲府市へのヒアリングによると、花小路の来訪者は、2025年12月時点で中心施設となる亀屋座への来訪者が12万人[2]、全体テナント利用者が42万人[3]で、合計約54万人がこの地を訪れた。年間目標の60万人は達成見込みであり、開業初年度としては極めて順調と言える。
亀屋座を含む平均滞在時間は53分であり、亀屋座では、土日はほとんどイベントで埋まり、ダンス、楽器演奏などの音楽イベント、ライブ、講演会、マルシェなど多様な催しによる交流拠点としての役割を果たしているほか、平日では企業の研修などにも利用されているという。
来訪者の属性を見ると、最も多いのは、60代女性(13.9%)、次いで40代男性(12.7%)などとなっている。若年層というよりは、比較的落ち着いた年代層が利用している実態が浮かび上がる。
3.2. 周辺エリアへの波及効果
周辺施設の来訪者数[4]は、舞鶴城公園で65%増、花小路から30mほど先にある「ヴァンフォーレおしろらんど(甲府市子ども屋内運動遊び場)」で2%増、「甲州夢小路」で20%増を記録しており、近隣商店街の店主からも「客足が増えた」との実感の声が寄せられているほか、開店時間を早めた店もあるという。
回遊を目的とした当初の計画のとおり、花小路は、単独で完結する施設ではなく、周辺エリアとの回遊を前提とした「結節点」として機能し始めている様子もうかがえる。
4. クチコミ分析により見えてきたもの
次に、Googleでの199件の花小路へのクチコミのうち100件を無作為に抽出し、テキストマイニング[5]による分析を行った。
出現頻度順での分析では、「良い」「雰囲気」「歩く」「できる」「素敵」などの言葉が多く使われていることが分かる(図1)。
図1 出現頻度順
図2 共起ネットワーク

また、共起キーワード[6]では、「雰囲気」と「良い」という言葉の結びつきが強く、空間に対する評価の高さがうかがえる。「ライトアップ」と「夜」の結びつきも強く、夜間の景観が印象として定着していることが分かる。 一方で、「店舗」と「空き」の結びつきが強く、1階はすべて入居しているものの、2階部分に空きがあることに対してネガティブな認識も存在する(図2)。
これらをまとめると、「歩く・見る」ための空間デザインは完成度が高く、良い評価をされている一方で「休む・過ごす・お金を使う」ためのコンテンツが弱く、リピート動機が形成されていないという課題もあるといえるだろう。
さらに、抽出した100件のクチコミ投稿者が、甲府駅周辺において花小路以外にどのような場所を訪れ、投稿しているのかを確認した。その結果、信玄公像、甲府市中心部のオリンピック通りや横丁などの路地、夢小路、ジュエリーミュージアムなどとなっており、広く甲府駅周辺を散策している様子が確認できた。
5. 現場観察により見えてきたもの
次に筆者が今年、3月~4月にかけて5日間、観察調査を実施した結果を示し、実際に確認したことから得た気づきや可能性を整理した。
5.1. 観察調査の概要
5.2. 滞在時間
筆者が観察調査したのは3月中の4日の観察で計22組、4月5日の5組で合計27組であるが、4月5日は信玄公祭りの2日目であり、普段の動線と大きく異なったため、今回は除いた形で報告する。
なお、本調査は計22組という限られたサンプル数に基づくものであるため、統計的な傾向を示すものではなく、あくまで期間中の観察から得られた筆者の体感として紹介したい。
花小路の滞在時間は、1~5分が12組、6~19分が4組、20~50分が6組で、平均滞在時間は約11分だった(表1)。
表1 観察による滞在時間
前述の市のデータである53分との乖離は、市データがイベント利用を含む一方、筆者の調査が「日常の歩き」に着目したためである。
川越市の観光アンケート調査報告書によると、「小江戸」で有名な「小江戸川越」の滞在時間(観光時間)は、2時間~4時間が50.8%で最も多く、次いで4時間~8時間(25.9%)であり[7]、面積が全く違う[8]ことを考慮したとしても、滞在時間11分という数字は短いようにも見える。
筆者自身も2026年2月に「小江戸川越」を訪れ、街歩きを行ってみたところ(写真2)、滞在した時間は4時間24分となった。川越のアンケート結果の2時間以上が7割を超えていることは、歴史的な広がりを持つ町並みの中に、昔ながらの商店や飲食店、寺院などが連続的に存在し、1つの目的地として成立していることを考えれば十分にうなずける。
一方、花小路は、回遊の途中に立ち寄る「結節点」としての性格が強く、単独で長時間滞在する目的地とは異なり、他の目的地への動線の一部となっている点がこの差につながっていると考えられる。
写真2 筆者が小江戸川越を回った記録

5.3. 目的地から「媒介空間」へ
しかし、これは欠点ではない。観察調査では、確かに花小路を短時間で通り抜ける来訪者が多く確認されたが、その多くは単なる通過ではなく、一度立ち止まり、景観を眺めたり写真を撮ったりしながら、次に向かう方向を選んでいた。観察調査では、花小路は舞鶴城公園(甲府城跡)、商店街、駅周辺をつなぐ通過動線上にあり、多方向への人の流れが確認された(写真3)。前述の甲府市の周辺施設の来場者の増加割合も併せて考えると、花小路は、人を留める「重し」ではなく、街の回遊を加速させる「ポンプ」として機能し始めていると言えるのではないだろうか。
写真3 各方面に向かう人の流れ

6. 消費の特徴
6.1. 消費スタイルの変容:シェア消費とコトへの移行
観察調査からは、「3人家族でパフェ1つ」「4人家族でクレープ2つ」といった「シェア消費」が目立った。
写真4 シェア消費の様子

日本大学商学部の堀田治准教授の「経験価値の研究系譜と体験消費へのアプローチ」によれば、「日本の消費者全体で、消費の中心はモノからコトへ移っており(略)」としている。これを花小路に当てはめると、クレープという物体を買うのではなく、それを家族で分け合う「体験」や「時間」に価値を見出しているとも捉えることができる。
シェアは物価高の影響に伴う面があると想定されるものの、シェアを1つの「コト」消費ととらえると、「シェアを前提とした売り方」など新たな売り方も模索できるであろう。
また、亀屋座にも設置されているワインサーバーに興味を示す来訪者や、テント出店の天然石を加工したアクセサリーなどの店の客が店主と語り合い交流していた様子からも、甲府や山梨の文化を象徴するモノ・コトに触れられる「体験(コト)」消費も大いに期待が持てると考えられる。
6.2. 消費額のポテンシャル
筆者の観察による平均消費額は約1,522円であったが、これは飲食店での消費額を含んでいないため、本格的な食事を含めると川越の平均消費額(約7,000円)に匹敵する可能性がある。
夜にも数日間、どのような店にどのくらいの客が入っているかを観察したところ、居酒屋、定食屋の稼働率が非常に高かった一方で、観光客向けメニューが多い店舗などは空席が目立つことが分かった。
つまり夜間は「観光客向け」から「地元客の日常使い」へと店の性格を転換させたり、あるいは普段から地元の人に親しまれている店に、観光客も自然と集ったりすることが重要だと言える。
例えば、昼は観光スポット、夜は地元の食事処として親しまれる石川県加賀温泉の食事処「めん酒房にしき家」や、地元客に支持されつつ、観光客からも「ご当地スタバ」として愛されるコーヒーチェーンのスターバックスなどはその好事例だ。
このように地元住民と観光客が共存する「二面性」を備えることが持続可能な経営の鍵となるのではないだろうか。
7. 2年目以降に向けた価値向上の視点
順調な一方で、気になる点もある。交流拠点である亀屋座の閉鎖性である。イベント時には正面扉が閉まっており(写真5)、扉が固く閉まった様子は、門前払いをされたような残念な気分にもなりかねない。来訪者が「見られないって」と戻っていく場面に何度か遭遇した。
土日など来訪者が多いときこそ、扉を開放し、伝統工芸品やワインサーバーを活用できる「隙」を作ることが、来訪者の記憶に残る「体験」を創出する一歩となるだろう。
写真5 イベント時に閉まっている亀屋座正面(写真左)、裏面(写真右)

8. 「小江戸甲府」の立ち位置
8.1. 「小江戸」の定義と甲府の特殊性
ここで改めて「小江戸」とは何かを再度確認してみたい。
広辞苑には「小京都」は掲載されているが、「小江戸」の掲載はない。明確な定義がないということなのだろう。
一般的に小江戸といえば、これまでも記載してきた川越市が想起されるが、川越や佐原、栃木市といった「小江戸サミット」を構成している地域は、歴史的建造物や蔵のある町並みを保存・活用するいわゆる「保存型」の小江戸である。
対して、今回の花小路の整備は、何もなかったところに史実に基づきながら新しく整備した「創出型」と定義できる(表2)。
歴史遺産を保存するのではなく、甲府がかつて甲州街道の要衝として江戸の文化をリードしていたという「繁栄の記憶」を、現代において新しく創り出したものだといえるだろう。
表2 川越、佐原、栃木市と甲府の「小江戸」の違いの整理
8.2. 「うつし文化」としての再解釈
民俗学者の松崎憲三は、モデルを模倣しつつ独自の形に整える文化を「うつし文化」と捉えている。この視点に立てば、花小路は単なる江戸のコピーではない。かつての甲府が持っていた華やかな文化への憧憬を背景に、現代の人びとが歩き、出会い、味わい、交流する新しい都市文化である。
すなわち、花小路は過去を参照しながら現在の体験価値を編み直す場として位置づける「うつし」の試みを行っていると言えるだろう。
9. おわりに:時代を巡る回遊に向けて
筆者は今回、調査のために計54,197歩を歩いた。その過程で確信したのは、甲府の魅力は「時代をワープできる密度」にあるということだ。
甲府駅(近代)→ 信玄公像(戦国)→ 舞鶴城公園(甲府城跡)(江戸初期)→ 花小路(江戸・生活)→ 横丁(昭和)→ ジュエリーミュージアム(近代〜現代)というように、単なる観光ルートではなく、歴史の断片を連続的に繋ぐ「時代を巡るまち歩き」において、花小路はその中心に位置する不可欠な「媒介空間」とならなければならない。
2年目以降は周辺整備も含めて、何をつくるかではなく「どう使われるか」をさらに問い続けることで、甲府の歴史と日常を繋ぐ結節点としての役割は、より深まっていくはずである。今後も花小路の動向に注目したい。
〈参考文献〉
「経験価値の研究系譜と体験消費へのアプローチ」(堀田治著、商学集志 第92巻 第3号2022.12)
「『小京都』と『小江戸』―『うつし文化』の基礎研究」(松崎憲三著、日本常民文化紀要 巻26, p. 1-34, 2007.3)
川越市観光アンケート調査報告書 令和6年(2024年)(作成:一般社団法人 DMO川越、監修:川越市産業観光部観光課)
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[1] 甲府駅北口に広がるレトロな雰囲気のショッピングエリア
[2] 入口センサー(半径50m)のdata総数÷2で計算した数。なお、亀屋座の半径10mでのGPSデータでは(亀屋座の半径10m)では29.6万人となっている
[3] 花小路の各テナントのレジ通過者数×3で計算した数
[4] 2025年4月~2026年3月22日までのデータ
[5] 文字情報から価値ある情報を見つけ出す分析手法。図1では、使われている言葉が多いほど文字が大きくなっている。また、色は動詞、名詞、形容詞などの別となっている。
[6] 文章中に出現する単語の出現パターンが似たものを線で結んだ図。出現数が多い語ほど大きく、また共起の程度は強い方から順に 太い実線 > 細い実線 > 破線で描画される。
[7] 川越市観光アンケート調査報告書 令和6年(2024年)(監修:川越市産業観光部観光課、作成:一般社団法人 DMO川越)より
[8] 小江戸川越の面積は約109㎢あり、花小路は約4200㎡


