Vol.338 山梨県の地域交通を実態から捉え直す―地域特性に応じた交通・輸送資源の組合せ―


公益財団法人 山梨総合研究所 
主任研究員 在原 巧

1. はじめに

1.1. 本レポートの位置づけ

 本レポートでは、人口減少や高齢化が進み、地域公共交通を取り巻く環境が変化する中で、山梨県における地域の移動を今後どのように支えていくかをテーマとする。
 筆者の2025年度NewsLetter「Vol.330 地域モビリティをいかに運用するか」(出典 山梨総合研究所 https://www.yafo.or.jp/2026/01/30/23578/)では、地方都市圏における自動車利用の実態や高齢期の移動制約を踏まえて、鉄道・幹線バスを「幹」、コミュニティバス等を「枝」、オンデマンド交通やタクシー等を「葉」とする交通体系を整理し、地域モビリティを既存公共交通の代替ではなく、生活目的型の移動を補完・接続する手段として位置づけた。また、山梨県内の甲斐市、笛吹市、丹波山村の事例を取り上げ、地域モビリティの実装方法を検討した。
 2026年度に入り、地域公共交通政策を取り巻く環境はさらに変化している。特に、地域に公共交通が存在していても、運行本数が少ない、高齢者等にとって利用しづらいなど、実際の生活に必要な移動を十分に確保できない状況への対応が重視されている。国土交通省では、こうした「誰もがアクセスできる移動の足がない又は利用しづらい」など、地域交通に係る課題を抱える地域を「交通空白」として捉え、その解消に向けた取組を進めている。
 また、「令和8年版交通政策白書」では、「交通空白」の解消と持続可能な地域交通の実現が特徴的な取組の一つとして取り上げられている。こうした動きは、地域交通を単に鉄道・バス等の路線の有無から捉えるのではなく、住民や来訪者が実際に必要な移動を確保できているかという視点から捉える必要性が高まっていることを示している。
 本レポートでは、こうした政策動向を踏まえ、地域モビリティを特定の新技術や交通手段の導入問題として扱うのではなく、地域に存在する交通・輸送資源をどのように組合せるかという視点から整理する。その上で、地域によって異なる交通需要や地域構造を捉えるための分析枠組みを設定し、地域交通の構成や役割を検討する。

2. 地域公共交通をめぐる国の政策動向

2.1. 「交通空白」の現状

 誰もがアクセスできる移動の足がない、又は利用しづらいなど、地域交通に係る課題を抱える地域を意味する「交通空白」は、公共交通が存在しない地域だけでなく、公共交通があっても利用しづらい地域なども含まれる。
 2025年4月30日時点の国土交通省調査によると、「交通空白」地区は全国2,057地区で確認されている。このうち、対策を「実施中」の地区が548地区、「準備中」が854地区、「検討中」が655地区となっている。また、継続的な状況把握が必要な「要モニタリング地区」は1,632地区となっている。

 

【図表1】「交通空白」地区

出典 国土交通省「令和7年『交通空白』リストアップ調査結果」

 

 山梨県では、「交通空白」地区が35地区確認されており、対策の内訳は「実施中」が4地区、「準備中」が26地区、「検討中」が5地区である。なおこの調査は、自治体からの回答率が92%であり、自治体の意向により公表されていない数値もある。市町村別では、甲府市が11地区、中央市が6地区、北杜市が4地区、都留市および市川三郷町が各3地区、甲斐市および笛吹市が各2地区、南アルプス市、上野原市、早川町、道志村が各1地区となっている。

【図表2】山梨県「交通空白」地区

出典 国土交通省「『交通空白』等リストアップ一覧表【地域の足】」(令和7年4月30日集計)

 

2.2. 地域交通の政策的位置づけ

 こうした「交通空白」の解消が課題となる中、バス・タクシー等の運転者不足などにより、既存の交通サービスを維持していくことも課題となっている。国ではその解消に向けた取組を進めている。
 高市内閣総理大臣は、2026年2月20日の施政方針演説において、「強い地域経済」の構築と「地域未来戦略」の推進を掲げた。その中で、地域交通や物流を維持するため、中継輸送やDXの推進、多様な主体による協業を促す枠組みの創設を通じて、「交通空白」やドライバー等の不足といった課題の解消に取り組む方針を示している。
 2026年6月に公布された改正地域公共交通活性化再生法では、「交通空白」等の解消と持続可能な地域公共交通の実現に向け、「地域の輸送資源のフル活用」や「共同化・協業化等」を推進することとしている。
 同法では、地方公共団体が主導し、地域の関係者から運転者や車両等の協力を得ながら、バス、タクシー、公共ライドシェア等を地域の状況や課題に応じて活用する仕組みが設けられた。また、市町村が連携・協働を図る関係者として、教育、医療、福祉、商業、観光等の施設利用者向け送迎サービスを提供する者も位置づけられている。
 さらに、2026年6月10日に開催された、第6回国土交通省「交通空白」解消本部では、通学・通院・買い物等を家族の送迎に頼ることにより、現役世代が仕事やその他の活動に充てる時間が失われる場合があると指摘している。こうした「交通空白」を地域や個人の成長機会を奪う「見えない壁」と捉え、その解消に向けた取組を「成長戦略の一翼を担う取組」と位置づけている。

 

3. 地域公共交通の現在地

3.1. 地方都市圏における自動車依存の実態

 地方都市では、日常の移動において自動車が大きな役割を担っている。特に、都市規模が小さい地域や中心都市郊外では、その傾向が強い。
 国土交通省「全国都市交通特性調査」は、全国70都市を対象として、人の移動や利用する交通手段等の特性を横断的・時系列的に把握する調査である。同調査では、調査対象都市を都市規模や都市圏における位置づけ等に応じて類型化しており、地方都市については、中心都市の人口規模が大きい順に、下表のとおり「地方中枢都市圏」、「地方中核都市圏」、「地方中心都市圏」に区分している。なお、山梨県では山梨市が調査対象となっており、「地方中核都市圏(中心都市40万人未満)」の周辺都市に区分されている。ただし、この区分は全国都市交通特性調査における調査対象都市の集計区分であり、甲府盆地や山梨県内の各地域を同様の都市圏に分類したものではない。このため、以下では山梨県内の地域を直接示すデータとしてではなく、地方都市における交通手段の特徴を把握するための全国的な比較データとして用いる。

 

【図表3】全国都市交通特性調査対象都市

※人口規模等から全国の都市を10の都市分類に分け、類型別に地域のバランス等を考慮して調査対象都市を選定している。都市類型a~cを三大都市圏、d~jを地方都市圏として集計している。
出典 国土交通省「令和3年度全国都市交通特性調査 集計結果」

 

 同調査から自動車(運転)の構成比をみると、平日は地方中枢都市圏の中心都市では30.7%であるのに対し、周辺都市では40.6%となっている。さらに、地方中核都市圏では中心都市で45.1~47.2%、周辺都市で54.8~59.3%、地方中心都市圏では58.6%となっている。
 休日についても、地方中枢都市圏の中心都市では34.9%、周辺都市では41.1%であるのに対し、地方中核都市圏では中心都市で44.3~48.1%、周辺都市で49.2~54.4%、地方中心都市圏では55.8%となっている。
 この結果から、中心都市・周辺都市ともに、人口規模が小さくなるにつれて自動車(運転)の構成比が高くなる傾向がみられる。また、同じ都市圏においても、中心都市より周辺都市の方が自動車(運転)の構成比が高い。 特に、地方中核都市圏の周辺都市および地方中心都市圏では、平日の移動の半数以上を自動車(運転)が占めている。
 これに対し、平日の鉄道の構成比は、地方中枢都市圏の中心都市では11.8%であるのに対し、地方中核都市圏では1.2~3.2%、地方中心都市圏では1.3%となっている。徒歩についても、地方中枢都市圏の中心都市では25.0%であるのに対し、地方中核都市圏では12.9~18.5%、地方中心都市圏では12.8%となっている。したがって、地方中核都市圏や地方中心都市圏では、地方中枢都市圏の中心都市と比較して鉄道や徒歩の構成比が低く、自動車の構成比が高くなっている。
 以上から、地方都市圏では、都市規模や都市圏内の位置づけによって程度に違いはあるものの、自動車が日常の移動において大きな役割を担っていることが確認できる。

 

【図表4】都市圏における自動車(運転)の構成比

出典 国土交通省「令和3年度全国都市交通特性調査」を基に筆者作成

 

【図表5】地方都市圏における交通手段構成比(平日)

出典 国土交通省「令和3年度全国都市交通特性調査」を基に筆者作成

 

【図表6】地方都市圏における交通手段構成比(休日)

出典 国土交通省「令和3年度全国都市交通特性調査」を基に筆者作成

 

3.2. 高齢者の移動と「生活に最低限必要な移動」

 山梨県では、他の地方都市と同様に人口減少と高齢化が進行している。山梨県「人口ビジョン2.0」によると、高齢化率は2020年の30.8%から上昇し、2080年には42.5%となる見込みである。また、老年人口は2020年の約25万人から2040年には約27万人となった後、減少に転じると推計されている。
 2025年度NewsLetterでは、健康寿命、年齢別運転免許保有状況、自主返納件数等を整理し、80歳以上では移動回数や免許保有者数が減少する状況を確認した。前節でみたように、地方都市圏では自動車が主要な移動手段となっていることから、高齢化が進む中では、自ら自動車を運転して移動することが難しくなった場合に、日常生活に必要な移動をどのように確保するかが課題となる。

 

【図表7】山梨県人口年齢3区分および構成比

出典 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計」(令和5年推計)を参考に山梨県が推計

 

 高齢期の移動を考える上で参考となるのが、山梨県地域公共交通計画における「生活に最低限必要な移動」の考え方である。同計画では、マイカーを利用できない県民にも保障されるべき活動を実現するための移動を「生活に最低限必要な移動」として整理している。
 2022年10月の県政モニターアンケート(回答者290人、複数回答)では、マイカーを利用できない場合であっても最低限保障されるべき活動について、「スーパー・コンビニ・商店へ食品・日用品の買い物に行ける」が92.4%、「診療所(医院、クリニック)に行ける」が81.0%、「総合病院に行ける」が66.9%となっている。山梨県は、この結果について、買い物と一般の通院はそれぞれ9割、8割の回答者が最低限保障されるべきと回答しており、最低限の生活の質を保つために必要な生活交通の確保・維持が望まれているとしている。
 このことから、自ら自動車を運転することが難しくなった場合であっても、特に食品・日用品の買い物や通院等、日常生活に必要な活動への移動を確保することが、地域交通を考える上で重要となる。

 

3.3. 山梨県の公共交通の現況

 通院や買い物等の日常生活に必要な移動は、市町村内だけで完結するものではない。山梨県では、県内の市町村間を結び、通勤・通学、通院、買い物等の広域的な移動を担う公共交通について、「広域生活交通ネットワーク指定路線」として位置づけている。同路線は、まず結ぶべき自治体を特定し、その上で具体的な路線を抽出するという2段階の考え方により、対象路線を選定している。指定路線には、鉄道や複数の市町村を結ぶ路線バス等が含まれ、市町村間の移動を支える広域的な公共交通ネットワークとして整理されている。

 

【図表8】山梨県広域生活交通ネットワーク指定路線

出典 山梨県「令和6年度山梨県地域公共交通計画資料」

 

 また、山梨県地域公共交通計画の評価等結果(令和7年4月~令和8年3月)によると、指定路線のバス輸送人員は、2024年度が430万人、2025年度が442万人となり、前年度から12万人、2.8%増加している。

 

【図表9】山梨県 広域生活交通ネットワーク等におけるバス利用者の推移

出典 山梨県「山梨県地域公共交通計画の評価等結果」を基に筆者作成

 このことから、県内の市町村間の生活移動を支える広域生活交通ネットワークについて、直近ではバスの利用者数が増加していることが確認できる。

 

3.4. 山梨への観光客の移動

 山梨県の地域交通を考える上では、県民の日常的な移動だけでなく、県内を訪れる観光客等の移動についても把握する必要がある。
 観光客による移動は、年間を通じて一定ではなく、観光シーズンや地域によって需要が変動する。また、観光客の移動手段には、自家用車のほか、鉄道、高速バス、路線バス、タクシー、レンタカー等があり、利用する交通手段によって地域交通との関わり方も異なる。このため、観光客が「いつ」「どこへ」「どの交通手段で」移動するのかを把握することも、地域交通を検討する上で重要となる。
 2024年の山梨県の観光入込客数は、年間で3,159万人となった。月別にみると、8月が343万人と最も多く、次いで5月が303万人、11月が300万人、10月が298万人となっている。一方で最も少ない月は2月の182万人、12月も193万人となっており、観光客数は月によって変動がみられる。

 

【図表10】令和6年山梨県月別観光入込数

出典 山梨県「令和6年山梨県観光入込客統計調査報告」を基に筆者作成

 

 圏域別にみると、富士・東部圏域が1,730万人と最も多く、県全体の54.8%を占めている。次いで峡中圏域が512万人(16.2%)、峡東圏域が452万人(14.3%)、峡北圏域が253万人(8.0%)、峡南圏域が213万人(6.7%)となっている。
 このように、山梨県の観光入込客は、月別で違いがみられるとともに、圏域別でも大きな違いがみられる。

 

【図表11】圏域別観光入込客数

出典 山梨県「令和6年山梨県観光入込客統計調査報告」を基に筆者作成

 

 一方、観光客数のすべてが公共交通の利用需要となるわけではない。同調査のアンケート調査(回答者3,123人、複数回答)によると、県内観光に利用した交通機関は、「自家用車、社用・公用車」が78.2%と最も高く、次いで「JR在来線」が12.6%、「高速バス」が2.8%、「レンタカー」が2.6%、「市内バス」が2.2%、「貸切バス・観光バス」が2.0%、「タクシー・ハイヤー」が1.0%となっている。

 

【図表12】令和6年山梨県観光客の県内観光に利用した交通機関

注:複数回答のため、各項目の合計は100%とならない。
出典 山梨県「令和6年山梨県観光入込客統計調査報告」を基に筆者作成

 

 この結果から、山梨県内の観光においては自動車による移動が中心となっている一方、JR在来線、高速バス、市内バス、タクシー等の公共交通を利用する観光客もみられる。したがって、観光客数そのものを公共交通需要として捉えるのではなく、観光客が「いつ」「どこに」集中し、「どの交通手段」で移動しているのかを併せて捉えることが重要となる。
 特に、観光客が集中する地域や時期においては、自動車による来訪が道路交通に影響する場合がある一方、公共交通を利用して来訪する観光客については、鉄道駅やバス停等から観光地までの移動手段を確保することも必要となる。このため、観光地において地域交通を検討する際には、県民の日常的な移動に加え、観光客によって生じる移動需要の地域的・時間的な変動についても考慮する必要がある。

 

4. 山梨県の地域交通を3つの類型から整理する

 過疎化・高齢化が進行する中、「交通空白」地域を持つ自治体や、中核都市圏における中心都市やその周辺都市、観光客の多い富士・東部圏域など、山梨県の地域交通が抱える課題は地域によって異なる。また、複数の交通手段が存在する地域であっても、地域や利用者によって必要な移動手段を利用しにくい場合がある。一方、人口や生活関連施設が分散する地域では、通院や買い物等の日常生活に必要な移動をどのように確保するかが課題となる。また、観光客が多く訪れる地域では、特定の時期・時間帯・場所への移動需要の集中が、道路や公共交通の混雑等につながる場合がある。
 そこで本レポートでは、山梨県内の市町村を3つの類型へ整理するのではなく、地域交通を取り巻く需要・地域構造の違いを把握するための分析上の枠組みとして、「都市圏型」「中山間地域型」「観光地域型」の3類型を設定する。
 3類型では、それぞれ地域交通を捉える際の中心的な視点を設定する。都市圏型では、複数の交通手段が存在する中で、それぞれがどのような機能を担い、相互にどのような関係にあるかという「ネットワーク」に着目する。中山間地域型では、分散する集落から通院・買い物等の日常生活に必要な目的地への移動をどのように確保するかという「生活アクセス」に着目する。観光地域型では、住民の日常的な移動に加え、観光客等の来訪によって特定の時期・時間帯・場所に生じる「需要集中」に着目する。

 

【図表13】山梨県の地域交通「3類型」を検討する交通モデル

 

 以下では、この3類型を分析上の枠組みとして、それぞれの地域でどのような移動上の課題が生じ、それに対してどのような交通の取組が行われているのか整理する。

 

5. 3類型から捉える地域交通の実態と課題

5.1. 都市圏型―複数の交通手段がある中での「交通空白」への対応

 都市圏型では、鉄道、路線バス、市町村が運行・支援する地域交通、タクシー等、複数の交通手段が存在する。一方、公共交通が存在していても、駅やバス停から離れた地域、運行本数や時間帯、利用者の状況等によって、必要な移動手段を利用しにくい地域や利用者が存在する。実際に甲府市では、公共交通空白地域が存在する地区を対象としてデマンドタクシーの実証運行を行っている。
 このことから、「交通空白」は公共交通そのものが少ない中山間地域だけの課題ではなく、複数の交通手段が存在する都市圏型においても生じる課題として捉える必要がある。都市圏型では、新たな交通手段を導入すること自体ではなく、既存の交通ネットワークの中で、どの地域・利用者の移動が十分に確保されていないのかを把握し、その不足する移動をどのように補うかという視点が重要となる。
 山梨県内の都市圏型では、甲斐市「かいのり」、甲府市「こうふデマンドタクシー」、中央市「のるーと中央」等、既存の公共交通では対応しにくい移動を補うため、デマンド型交通の導入・実証が行われている。
 甲斐市では、市内を複数の運行エリアに分け、各運行エリア内の移動に対応するとともに、運行エリアをまたぐ場合には乗継拠点を利用する仕組みとしている。ここでいう「エリア」は、市町村等の行政区域ではなく、サービスの運行上設定された区域を指す。甲府市では、鉄道・路線バス・タクシーを公共交通の骨格とした上で、既存公共交通を利用しにくい地域の高齢者等の生活移動を補う交通として実証している。また、中央市では、市内の駅や医療機関、商業施設等への移動に対応する交通として運行している。
 このように、都市圏型では、同じデマンド型交通であっても、地域の人口分布や既存公共交通の状況等によって担う役割は異なる。このため、既存の交通ネットワークの中で十分に対応できていない移動を把握し、デマンド型交通等がその移動をどのように補っているかを捉える必要がある。

 

【図表14】都市圏型における地域交通の事例

出典 甲斐市、甲府市、中央市の各公表資料を基に筆者作成

 

5.2. 中山間地域型―地域の輸送資源を活用した生活移動の確保

 中山間地域型では、人口密度が低く、集落が市町村内に分散している地域がみられる。また、通院や買い物等の目的地が市町村外にある場合もあり、日常生活に必要な移動が市町村内だけで完結するとは限らない。こうした地域では、移動需要が小規模かつ分散する一方、人口減少が進んでも生活に必要な移動はなくならず、路線バスやタクシー等だけでは対応しにくい地域や時間帯が生じる場合がある。
 このため、中山間地域型では、生活に必要な移動をどのように確保するかを起点として、既存の公共交通を基本としながら、それだけでは対応しにくい移動について、地域に存在する車両や運転者等の輸送資源をどのように活用するかという視点が重要となる。
 国の地域公共交通政策においても、「地域の輸送資源のフル活用」や「共同化・協業化等」を進めている。ここでいう地域の輸送資源には、交通事業者が保有する車両・運転者等だけでなく、医療・福祉・教育等の施設が保有する送迎に係る人員・車両等も含まれている。
 その手段の一つとして、バス・タクシー等による輸送サービスの提供が困難な場合に、市町村やNPO法人等が自家用車を活用して有償で運送する制度である公共ライドシェア(自家用有償旅客運送)がある。これは、既存の公共交通を一律に置き換えるものではなく、既存交通では対応しにくい移動に対して、地域の車両や運転者等を活用する手段の一つとして位置づけることができる。

 

【図表15】中山間地域型における地域の輸送資源を活用した取組

出典 国土交通省、山梨県地域公共交通協議会、北杜市、市川三郷町、富士川町の各公表資料を基に筆者作成

 

 このように、中山間地域型では、公共ライドシェアそのものを目的とするのではなく、まず生活に必要な移動のうち、既存交通で対応できている部分と対応しにくい部分を把握することが重要となる。その上で、不足する移動について、公共ライドシェアを含め、地域に存在する車両や運転者等の輸送資源をどのように活用するかを検討する必要がある。

 

5.3. 観光地域型―観光需要の集中への対応

 観光地域型では、住民の日常的な移動に加え、観光客等の来訪による移動需要が発生し、観光シーズンや時間帯、特定の観光地・交通拠点等に需要が集中する場合があり、その対応が重要となる。
 富士北麓では、夏季の富士スバルラインにおいてマイカー規制を実施し、一般車両からシャトルバスやタクシーへの乗り換えを行っている。2026年は7月3日から9月10日までマイカー規制が実施された。これは、観光客のマイカーによる交通を一定区間で規制し、シャトルバスやタクシーへの乗り換えによって五合目への移動を確保する取り組みである。
 また、富士吉田市では、自動運転EVバスの実証を行い、2026年1~2月には富士みち循環ルートで1日6便を運行し、通年運行に向けた需要の把握等を行っている。

 

【図表16】観光地域型における需要集中への交通の取組み

出典 山梨県、富士吉田市の各公表資料を基に筆者作成

 

 このように、観光地域型では、観光客のための新たな交通手段を導入することだけでなく、住民の日常的な移動と観光客による移動の双方を捉え、観光需要が集中・変動する中で地域の移動をどのように支えるかを検討する必要がある。

 

5.4. 3類型を「幹・枝・葉」の機能から捉え直す

 このように3類型では課題の現れ方や対応する取組は異なる。一方、いずれの類型においても、新たな交通手段を導入すること自体ではなく、地域で必要とされる移動に対して、既存の交通手段や新たな交通サービス、その他の輸送資源がどのような機能を担っているかを把握することが共通して重要となる。
 そこで、2025年度NewsLetterで整理した「幹・枝・葉」を、交通手段の種類を分類するものではなく、地域交通が担う機能を捉えるための共通の視点として下表のとおり整理する。
 都市圏型では、鉄道や路線バス等の複数の公共交通が存在し、その中で地域内外の移動を支える基軸的な交通が「幹」の機能を担う。その上で、基軸となる交通と地域内の移動をつなぐ「枝」、既存交通では対応しにくい個々の移動に対応する「葉」の機能をどの交通手段が担っているかを捉える。
 一方、中山間地域型では、人口や移動需要が小規模かつ分散していることから、都市圏型のような明確な「幹」が存在することを前提としない。むしろ、通院や買い物等の生活に必要な移動に対して、市町村交通、路線バス、タクシー、公共ライドシェア、施設送迎等の交通手段・輸送資源が、それぞれ地域や生活関連施設等をつなぐ「枝」や、個々の移動需要に対応する「葉」の機能をどのように担っているかを捉えることが重要となる。
 また、観光地域型についても、観光需要は時期・時間帯・場所によって変動するため、特定の交通手段が恒常的に「幹」の機能を担うことを前提としない。住民の日常的な移動に加え、観光客の移動需要に対して、鉄道駅、バス停、駐車場等と観光地をつなぐ「枝」の機能や、特定の時間帯・場所等に発生する個々の移動需要に対応する「葉」の機能が、どのように確保されているかを捉える。

 

【図表17】3類型と「幹・枝・葉」の機能の捉え方

 

 このように、「幹・枝・葉」の構成は地域によって異なり、すべての地域で3つの機能が明確に存在するとは限らない。特に中山間地域型や観光地域型では、明確な「幹」を設定することよりも、地域に必要な移動に対して、「枝」や「葉」に相当する機能を含め、複数の交通手段・輸送資源がどのように移動を支えているかを捉えることが重要となる。
 また、同じ交通手段であっても、その機能は地域によって異なる。例えば、デマンド交通が鉄道や路線バスと地域内の移動をつなぐ場合には「枝」の機能を担う一方、個々の通院や買い物等の移動に対応する場合には「葉」の機能を担う。このため、交通手段をあらかじめ「幹・枝・葉」に分類するのではなく、地域の公共交通の実情や移動需要を踏まえ、それぞれの交通手段・輸送資源がどの機能を担っているのか、また、どの機能が不足しているのかを捉えることが重要である。

 

6. まとめ―地域の輸送資源と移動ニーズから考えるこれからの地域交通

 本レポートでは、山梨県の地域交通について、地方都市圏における自動車利用、高齢者の生活に必要な移動、広域的な公共交通、観光客による移動等の現状を整理した。その上で、地域によって異なる交通課題を「都市圏型」「中山間地域型」「観光地域型」の3類型から整理し、それぞれの地域において交通手段・輸送資源が担う機能を「幹・枝・葉」の考え方から捉えた。
 これまでの整理から、今後の地域交通を検討する上では、特定の交通手段の導入を出発点とするのではなく、地域にどのような交通手段・輸送資源が存在するのかという「供給」と、住民や来訪者にどのような移動が必要とされているのかという「需要」の双方を把握し、両者を組合せて考えることが重要となる。

 

6.1. 地域に存在する交通手段・輸送資源を把握する

 地域交通を検討する上では、まず、その地域にどのような交通手段・輸送資源が存在し、それぞれがどのような機能を担っているのかを把握する必要がある。
 その対象は、鉄道、路線バス、タクシー等の既存の公共交通だけではない。市町村が運行・支援する地域交通のほか、医療・福祉・教育・商業・観光等の関係主体が保有する車両や送迎サービスなども、地域の移動を支える輸送資源として捉えることができる。
 また、交通手段の種類だけではなく、それぞれが地域交通の中でどのような機能を担っているかを把握することが重要である。本レポートで整理した「幹・枝・葉」の考え方も、鉄道や路線バスを「幹」、デマンド交通を「枝」といったように交通手段の種類だけで捉えるのではなく、それぞれが地域交通の中で果たす機能に着目する考え方である。地域の公共交通の状況に応じて、地域交通の基軸となる機能、地域や交通手段をつなぐ機能、個々の移動需要に対応する機能が、どの交通手段・輸送資源によって担われているのかを確認するための視点である。
 このため、既存の交通手段・輸送資源を把握し、その機能を確認することが、地域交通を検討する出発点となる。

 

6.2. 地域の移動ニーズを把握する

 一方、交通手段・輸送資源の把握だけでは、地域に必要な交通を判断することはできない。「公共交通があるか」という供給側からの把握だけでなく、「誰が、どこから、どこへ、何のために、いつ移動する必要があるのか」「その移動が現在の交通手段で確保されているか」という利用者側の移動ニーズを把握する必要がある。
 例えば、地域に路線バスが存在していても、必要な時間帯に運行していない、目的地まで移動できない、乗り換えが難しい場合には、必要な移動が十分に確保されているとは限らない。特に、自動車利用の割合が高い地域では、自ら自動車を運転することが難しくなった場合に、通院や買い物等の生活に必要な移動をどのように確保するかが課題となる。
 また、移動ニーズは住民の日常生活だけではない。観光地域では、観光客の来訪によって時期・時間帯・場所によって移動需要が変動し、道路や公共交通の混雑等を通じて住民の日常的な移動にも影響する場合がある。このため、住民と来訪者の双方を含め、地域で発生する移動ニーズを把握する必要がある。

 

6.3. 交通手段・輸送資源と移動ニーズを組合せて考える

 今後の地域交通を検討する上で重要なのは、地域に存在する交通手段・輸送資源と、利用者の移動ニーズをそれぞれ把握するだけでなく、両者を対応させ、不足している移動や機能を明らかにすることである。
 まず、地域に必要な移動を把握し、既存の交通手段・輸送資源によって、その移動がどこまで確保されているのかを確認する。その上で、既存の交通では対応できていない地域、時間帯、目的地、利用者等を把握し、その不足する移動に対して、どのような交通手段・輸送資源を組合せることができるのかを検討する必要がある。
 その際、新たな交通手段の導入が必ずしも出発点となるわけではない。既存の路線バスやタクシー、市町村交通等の活用・見直しに加え、必要に応じてデマンド交通、公共ライドシェア、施設送迎等の地域の輸送資源を組合せることが考えられる。
 また、通勤・通学、通院、買い物等の移動は市町村内だけで完結するとは限らない。このため、市町村単独での検討に加え、広域的な移動については、県、市町村、交通事業者、その他の関係主体が移動実態や交通資源に関する情報を共有し、地域や行政区域を越えて交通手段・輸送資源を組合せていく視点も必要となる。

 以上から、これからの地域交通については、

 「移動ニーズの把握」→「既存の交通手段・輸送資源の把握」→「それぞれが担う機能の確認」→「不足する移動・機能の把握」→「交通手段・輸送資源の組合せ」

 という流れで検討することが重要となる。

 地域によって、人口分布、生活関連施設の立地、既存公共交通、観光需要等の状況は異なる。このため、特定の交通手段や一律の交通モデルを地域に当てはめるのではなく、地域の移動ニーズと地域に存在する交通手段・輸送資源を対応させ、その地域に不足する機能を補う組合せを検討していくことが、今後の地域交通に求められる。